北海道大学の西部教授と栗田さん,そして橋本さんと共同で進めている
貨幣意識の研究に関して,このほどふたつ論文が刊行されました.
ひとつは,異なる社会活動に従事している集団の貨幣(お金)に関する
価値意識の違いを調べたもので,調査対象として,社会集団として対照的な存在と考えられる
地域通貨に関係している人たちと金融機関に従事している人たちを取り上げています.
そもそも「貨幣意識」とは何ぞやということですが,簡単にいえば現行の貨幣制度の下で
自己の行動を決定するための価値基準と考えてください(詳しくは論文をご参照ください).
その貨幣意識の違いと社会活動の違いの相関関係を調べたというのがメインの内容です.
2者間の貨幣意識の違いは割とはっきりと出て,地域通貨関係者は金融関係者に比べて
貨幣の多様性と公共性(平等,安全,友愛)を強く是認することがわかりました.
一般の人たちの貨幣意識も調査したのですが,金融関係者は貨幣の多様性と公共性について
一般の人たちよりもこれらの数値がさらに低い傾向にありました.
活動を行ったから意識が変わったのか,もともと同じ意識を持つ人たちが集まっただけなのか,
因果関係まではわかりませんが,異なる社会活動に属する人たちでは価値意識に違いがあり,
ここから,その価値意識に特徴付けられた多様な制度が生み出しうることが示唆されます.
さらなる結果の考察に関しては論文をご参照ください.以下,書誌情報です.
小林 重人*,西部 忠*,栗田 健一,橋本 敬:社会活動による貨幣意識の差異-地域通貨関係者と金融関係者の比較から-,企業研究,Vol.17, pp.73-91, 2010. (*equal contribution)
残念ながらこちらの論文はウェブでダウンロードできません.
出版元の
中央大学企業研究所に問い合わせていただくか,
私に連絡いただければ別刷りをお渡しすることができます.
またこの論文は,2008年に
北海道大学社会科学実験研究センター(CERSS) より
ワーキングペーパーとして刊行された内容を若干修正したものですので,
そちらでしたらウェブからダウンロードすることができる状態になっています.
ただし,ダウンロードにはご自身のメールアドレスの入力が必要です.
もうひとつは,地域通貨の流通が人々の貨幣意識にどのような影響を与えるのかを,
武蔵野市にて9ヶ月間実施された地域通貨「むチュー」の流通実験を通して調べた論文です.
結果から,単に地域通貨を流通させるだけでは人々の貨幣意識は変化せず,地域通貨に対する
理解が促進されると貨幣の多様性を是認する傾向になることがわかりました.
しかしながら,理解が促進されると,同時に利子に対する肯定的な評価を強めるという
地域通貨の特性(利子ゼロまたは減価)とは逆行する意識も現れることがわかりました.
すなわち,地域通貨の理念や特性を理解することは,それらに対する評価として,
肯定と否定の両方を生み出しうるということになります.
これは地域通貨の導入を検討する上で,とても興味深い結果です.
また,流通実験が2008年10月に発生したリーマンショックをまたいでいることから,
金融危機のような経済環境の大規模な変化が人々の価値意識を
どのように変容させたかということについても調べることができました.
こちらは,地域通貨の流通前後で
ベーシックインカムを肯定する意識と
拝金主義を否定する意識が強まっていることがわかりました.
とりわけこの2つは金融危機後に人々の批判にさらされた新自由主義を否定する項目であり,
金融危機が人々の貨幣意識に影響を与えた可能性が高いと言えます.以下,書誌情報です.
小林 重人*, 栗田 健一*,西部 忠,橋本 敬:地域通貨流通実験前後における貨幣意識の変化に関する考察-東京都武蔵野市のケース-,北海道大学社会科学実験研究センター(CERSS) ワーキングペーパーシリーズ,No.118, 2010. (*equal contribution)
こちらも同じく
北海道大学社会科学実験研究センター(CERSS)より
ダウンロードすることができます.別刷りはございませんので,ウェブのみでご覧ください.