2010年10月17日日曜日

制度進化の論文出版

私と橋本さんの共著である英語論文がこのほどEvolutionary and Institutional Economics Review (EIER)より出版されました.書誌情報は以下の通りです.

Shigeto Kobayashi and Takashi Hashimoto (2010) "Analysis of Institutional Evolution in Circuit Breakers Using the Concepts of Replicator and Interactor", Evolutionary and Institutional Economics Review (EIER), Vol.7, No.1, pp.101-112.

先日採択された論文とは別のもので,こちらは昨年11月に東京で開催された
Asia-Pacific Conference on Complex Systems (Complex'09)で発表した中から
推薦論文として選ばれたものです.そのおかげで正規に投稿したものよりも
早く査読されてこの度出版される運びとなりました.

海外にいるのでまだ手元には届いていませんが,こちらもかなり無理をして
国際会議に二本出しをし,そのうちの一本が選ばれたというものなので,
私の感慨もひとしおです.英語の直しもかなり時間をかけてやりましたしね.

内容は以前紹介した進化経済学の教科書で書いたものに加えて,
市場制度におけるルール(複製子)とそこに関係する行動主体(相互作用子)の構造を
西部(2006)のモデルの枠組みを用いて説明を行っています.



ここで重要なのは,取引所における制度設計担当部署が取引参加者と相互作用している点と
取引所同士が相互作用している点です.サーキットブレーカー制度を例にとるならば,
前者は株価の暴落という環境変化により,取引参加者自身が市場から退場させられないように
(生物学的に言うならば,自己保存のために)制度設計担当者に取引所のルール(複製子)の
変更を求め,制度設計担当者も取引所のシステムを維持するために
(取引所というシステムの自己保存のために)ルールブックの変更について
取引参加者に広く意見を求めるような相互作用が考えられます.

後者は,取引所の制度設計担当部署がすでにサーキットブレーカーを導入している
他の取引所の基準を参照して自取引所のルールを設定するという,取引所間の相互作用です.
これらの相互作用は,ルールブックに記載されている文字情報だけではなく,
取引所が形成する市場価格などのさまざまなマクロデータによっても媒介されるでしょう.
実際にいくつかの取引所で2008年10月に実施されたサーキットブレーカー制度の改変を見ると,
その多くがニューヨーク証券取引所のルール(複製子)を参照し,
その一部をコピーして自己のルール(複製子)を改変したものと考えられるのです.

かいつまんだ説明になってしまいましたが,詳しくは出版された論文を参照ください.
まだアップされていませんが,じきにこちらよりダウンロードできるようになるそうです.
本論文の日本語版を請求される方はメールにて直接私にご連絡ください.
メールアドレスは左上の自己紹介にある「詳細プロフィール」内に記載されています.